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名古屋高等裁判所 昭和60年(行コ)2号〔1〕 決定 1985年6月14日

名古屋市緑区有松町大字有松字橋東南七六番地

控訴人(原告)

森井明

右訴訟代理人弁護士

藤井繁

東京都千代田区

が関三丁目一番一号

被控訴人(被告)

国税不服審判所長

林信一

右指定代理人

荻野志貴雄

月山兵衛

遠藤考仁

佐野貢

大西昇一郎

右当事者間の裁決取消請求控訴事件について、控訴人から行政事件訴訟法一五条に基づく被告変更の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件の被告国税不服審判所長を名古屋熱田区花表町七番一七号熱田税務署長大野敏夫に変更することを許可する。

理由

本件申立は、要するに、控訴人(原告)は、昭和五七年分の所得税について、控訴人が昭和五七年三月一二日に控訴人所有の豊田市田中町四丁目九番四所在の宅地五三二・八八平方メートルを譲渡したことによる所得の算定上、右土地の譲渡が租税特別措置法三一条所定の長期譲渡所得の課税の特例が適用されるべきものであるのに、これを適用しないで確定申告をしたので、昭和五八年六月六日右土地の譲渡による所得が右特例の適用を受けるべきものとして熱田税務署長に対し更正の請求をしたところ、同税務署長は同年九月九日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたので、控訴人はこれを不服として被控訴人に対し審査請求をしたところ、被控訴人は昭和五九年七月三一日付でこれを棄却する旨の裁決をしたので、原処分の違法を理由に右裁決の取消しを求めて被控訴人を被告として原裁判所に本件訴えを提起したが、本件訴えにおいては、熱田税務署長を被告として原処分の取消しを求めるべきであるのに、行政事件訴訟法一〇条二項の趣旨を理解しえなかったため、被控訴人を被告として本件裁決の取消しを求めたものであるから、被告変更の申立に及んだ、というのである。

そこで、検討するに、本件訴えは審査庁である被控訴人を被告として本件裁決の取消しを求めるものであるから、その限りにおいて被告を誤っているということはできない。しかしながら控訴人の主張によると、本件訴えは原処分の違法を理由に本件裁決の取消しを求めるものであるところ、行政事件訴訟法一〇条二項によると、原処分とそれについての裁決の双方に対し取消訴訟を提起しうる場合には、原処分の違法を理由に裁決の取消しを求めることはできないとされているから、控訴人は本件訴えを提起するに当たり、実質的には被告とすべきものを誤った結果、取消しの対象となるべき行政処分をも誤ったものというべきである。そして、行政事件訴訟法の右条項は高度に法技術的な規定であるから、原審において代理人を選任しないで本件訴えを提起した控訴人が、法の趣旨を誤解したとしてもやむを得ないものというべきであり、原審第二回口頭弁論期日において控訴人が裁判長の釈明に対し被告変更の意思がない旨返答しているとはいえ、右は法の趣旨を理解した上での応答とは解しえないから、これをもって控訴人に故意または重大な過失があったものと認めることはできない。

よって、本件被告変更の申立を許可することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 黒木美朝 裁判官 喜多村治雄)

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